音を出すという点でいえば、雅楽器(龍笛・篳篥・笙)の中では最も難しい篳篥。また、同じ運指で違う音を出す特徴もあるため、非常に音程が不安定なところも難しいところです。
一時期、東儀さんがテレビでジャズ等の曲をカッコよく篳篥で吹いているのを見て、購入される方が沢山いらっしゃいましたが、音が出ないという問い合わせを沢山いただきました。
篠笛や龍笛と比べると比にならないくらいお問い合わせが多いのが篳篥です。
それほど難易度が高い楽器といえます。
ですが、その分魅力もものすごくあります。
あんなに小さい楽器なのに力強い音がでて、ジャズやJポップも吹けてしまう、、、これは憧れてしまいますね。
今回はその篳篥についてご紹介させていただきます。
篳篥の歴史や特徴など
篳篥の歴史
西域(中国人が中国の西方にある国々を呼んだ総称)起源の楽器で、奈良時代直前に中国から雅楽の楽器の1つとして伝わったといわれています。
大篳篥・小篳篥の区別がありましたが、10世紀には小篳篥だけが残りました。
▼上が小篳篥、下が大篳篥
篳篥は唐楽(とうがく)、高麗楽(こまがく)、そして日本古来の御神楽(みかぐら)などで使用されます。
- 唐楽・・・中国から日本に伝来した唐代の音楽
- 高麗楽・・・朝鮮から日本に伝わった雅楽の一種
- 神楽・・・御神前で奏する日本古来の音楽・舞のこと
篳篥の特徴
篳篥はダブルリードような形状のロゼツ(「した」ともいわれる)というリードを使用する気鳴楽器(きめいがっき)。
西洋楽器のダブルリードは基本的に削った2枚の葦を重ね合わせたものですが、篳篥のリードは筒状のものの片方を潰して作ります。
雅楽において最も重要な楽器といわれており、雅楽には色々な種類があり、笙や龍笛は高麗楽では使用されないなどありますが、篳篥はほぼ全てに入ります。
篳篥は小さい楽器ですが、音量が大きく、音程も自由に出せるので、合奏では主旋律を担当します。また、幹音(かんおん)以外の音を装飾的に出す奏法が多用されますが、これを「塩梅(えんばい)」といいます。
塩梅は篳篥の奏法の中で、もっとも特色のあるもので、曲の流れをよりなめらかに、音の変化を無理なく奏するための技法です。
篳篥は、指使いを変えずに、唇や息の調節により、上下一音以上の音程を変化させることができるので、それを利用して、リードのくわえ方と息の強弱、また指使い等の組合わせと調節によって、旋律になめらかさと、すり上げ風の効果を与えながら、必要なアクセントやリズムを与えていきます。
文章だけではわかりにくいと思いますので、下記youtube動画の塩梅の音色を聞いてみてください。
▼日本 篳篥(雅楽) 奏法 いろいろな「塩梅」
- 気鳴楽器・・・空気の塊を振動させることによって音を出す楽器
- 幹音・・・基礎となる音のことで、ピアノでいうと白鍵の出す音
篳篥の構造
篳篥本体の大きさは、長さ約18cm、上部の直径約1.5cm、下部が約1cmで、表面(上側)に指穴が7個、裏面(下側)に指穴が2個あります。上部の穴にリードを差し込みます。
基本的に本体は煤竹で作られますが、現在は真竹や樹脂で作られたものもあります。巻きも樺巻きや藤巻以外にも糸巻きなどもあります。
音が出る仕組みとしては、ダブルリードの合わさっているところが閉じたり、開いたりすることにより、音が発生するようになっています。
▼ダブルリードの音が出る仕組み(オーボエ)
ロゼツ(リード)について
リード(廬舌・ロゼツ)は複数育てる
篳篥はリードで全く演奏が変わってしまうというくらい、リードに悩まされます。リードは育てるともいわれるように、自分に合うように(音が出やすくなるように)吹き込んだり、削ったりと、自分用に育てていきますが、育った途端、割れてしまったりしてしまう場合もあります。
割れてしまって新しいリードを買って使おうとしても、同じようには音が出ません。また一から育てなくてはなりません。ですので、基本的に何個か同時に育てて持っておきます。
リード(廬舌・ロゼツ)をお茶につける理由
篳篥のリードは使用する前にお茶につけるのですが、お茶につける理由は、リードを柔らかくするためというのと、お茶に含まれるタンニンがリードの繊維を強くするとも言われています。また、リードをやわらかくするには緑茶、材質を強くするには番茶という人もいます。
色々調べましたが、はっきりとした化学根拠は見つかりませんでした。
世目(せめ)の役目とは?
リードには藤製の世目(せめ)をはめ、開き過ぎるのを防ぐ効果があるようです。また、リードを適切な圧力で締め付けることで、リードに「鳴る」部分と「響く」部分を作り、発音と操作をしやすくさせる効果があるともいわれています。
リードの下の部分には、管とリードの隙間を埋める為に図紙という和紙が巻かれています。
リード(廬舌・ロゼツ)を削る場合
リードは葦で作られており、特定の箇所を削ってから吹きます。
販売されているものは加工品と未加工品があり、加工品は特定の箇所がすでに削られているもので未加工品は自分で削ってから使用するようになっています。
ただ、加工品であっても人によって合う削り方などもありますので、音が出ない場合などは、やすりなどで削って使用したほうがいい場合もあります。
また、メーカーによってはリードにはランクがありますが、このランクは音が出やすいというランクではなく、ランクが下の方だと柔らかく、上の方だと硬め、という場合があります。
ちなみに、、柔らかいと音が出しやすく初心者向けですが、早めにヘタってしまいます。逆に硬いと扱いは難しいですが、長持ちします。
持っているリードの音が出にくい場合は、上記画像のセメよりも上の赤色の部分を紙やすりなどで均等の厚さになるように削るか、吹き込み口の穴の形が半月になるようにセメより下の赤色部分(側面)を削ってください。
- 削ったとき、もしくは最初からロゼツの両側面にスジがはいっている場合がありますが、息もれしていない限り問題ございません。
各部名称
指穴は指の腹でおさえます。裏側の指穴はどちらも親指でおさえます。
種類と値段の比較
煤竹 | 真竹 | 樹脂 |
|
---|---|---|---|
樺巻 | 198000~220000円 | - | - |
藤巻 | 88000~110000円 | 38500円 | - |
巻無し | - | - | 4400円 |
- 2020年11月11日現在の販売価格です
- リード無しの本体のみの価格です
篳篥の音域・音程
篳篥の音域は1オクターブ+1音程度で、それ以上の音域も出せるようですが、技術がいるようです。
- ●が指穴を押さえる、○は押さえない
- 舌が一番低い音でテに向かうにつれ音が上がっていきます
運指を変えなくてもリードのくわえ方によって、かなり音程が上下しますので、古典曲でない限り、指定された指使いでなくてもいいそうです。
篳篥は音程を合わせるのが難しい楽器ですので、チューナーを使用しながら音程があっているか確認して吹きましょう。
最後に
昔は篳篥の音色はあまり人気がなく、清少納言もうるさくてあまり好きではないと、枕草子に書いています。しかし、それだけ吹くのが難しかったのかもしれません。
明尊僧正(滋賀県にある三井寺の僧)という僧も、篳篥が大嫌いだったそうですが、ある時、非常に上手い奏者の演奏を聞いた時、涙を流して感動したようです。
習得するまでは苦労する篳篥ですが、上手く吹けるようになれば非常に魅力的な楽器です。苦労する分、習得すれば一生の相棒にもなる楽器です。
まずは一度、東儀さんの演奏動画を見てみてください。
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